不動産収入の移転による相続税対策

文書作成日:2017/02/05

継続的な収入により金融資産が減らないとき、相続対策として良い方法はないでしょうか。

不動産賃貸業を営んでいる父は、賃貸マンションや金融資産をそれなりに保有しています。そのため相続対策として、毎年子や孫へ現金贈与を行っていますが、不動産収入が継続的に入るため、金融資産が減りません。何か良い方法はありませんか。

継続的に所有不動産からの収入が入ってくる方にとっては、現金贈与による対策は“焼け石に水”という場合があります。入ってくる不動産収入以上に贈与すれば、財産を減らしていくことはできますが、それでは贈与税の負担ばかりが大きくなります。そこで発想の転換をし、入ってくる不動産収入を減らすことを考えてみてはいかがでしょうか?

収入を減らすといっても、入居者から頂く賃貸料を減らしたり、賃貸を止めたり、本当に入ってくる収入を減らしてしまっては本末転倒です。子や孫へ現金を贈与する代わりに、将来の不動産収入の元となる資産を贈与してしまうのです。

具体例で見てみましょう。

賃貸マンションを贈与しても、毎年現金700万円を贈与しても、毎年700万円というお金が子の懐に入るということに変わりありません。にも拘わらず、10年後にトータルで支払うべき税額で918万円もの差が生じる結果となりました。

収入のある不動産を贈与するということは、その物件から将来的に生ずる収入を、無税で贈与できる、という効果をもたらします。
また、子の方が適用される所得税率が低い場合には、所得税負担が軽減されることもあるでしょう。

不動産収入の贈与のポイントは、該当不動産全てを贈与するのではなく「建物のみ贈与する」ということです。敷地も贈与を受けるとなると、贈与税が非常に高額になってしまいます。入居者から家賃を受け取るべき人は、建物の所有者です。従って、敷地の所有は父のまま無償(使用貸借)で借りれば良いのです。
ただし、土地の評価に当たっては注意が必要です。賃貸マンションの敷地は、本来なら貸家建付地評価として評価額から一定額控除できます。しかし、「建物名義が子」、「土地名義が父」の場合で土地の使用対価が無償であれば使用貸借となり、敷地を評価する際には、原則として貸家建付地割合を控除することができません。

また、賃貸マンションの建築に係る借入金の残債がある場合にも注意が必要です。賃貸マンションの贈与とともに借入金も引き継がせた場合には、負担付贈与に該当します。負担付贈与の場合には、受贈者は時価により贈与税課税され、また、贈与者は時価で譲渡したものとみなして譲渡所得税が課税されます。

賃貸物件の贈与は、贈与から相続開始までの期間が長ければ長いほど、移転できる不動産収入が多くなり、贈与による効果が大きくなります。

物件の利回り、敷地の相続税評価額、建物の取得に係る借入金の有無などを考慮し、的確な物件を選定することで、大きな税効果が期待できます。収益物件を所有されている方は、一度ご検討ください。

<まとめ>

  • 「建物名義が子」「土地名義が父」の場合で土地の使用対価が無償であれば、敷地の相続税評価は使用貸借として自用地評価となります。
    貸家建付地評価と自用地評価との差額による相続税への影響に注意しましょう。
  • 早期贈与で収入移転額をより大きくしましょう。
    少しでも多くの不動産収入を次世代に移転させることにより、より一層の税効果が期待できます。
  • 借入金の残債がない建物を選定しましょう。
    贈与とともに借入金も引き継がせる場合には負担付贈与となり、贈与税と所得税のどちらも課税される場合があります。

<根拠条文>相法19、21の9~15、昭和48年11月1日付直資2-189

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